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東京地方裁判所 平成10年(ワ)11156号 判決 2000年9月27日

原告

甲野一郎

右訴訟代理人弁護士

平手啓一

被告

有限会社乙田製作所

右代表者代表取締役

乙田太郎

右訴訟代理人弁護士

原田進安

尾崎行正

服部明人

野嶋慎一郎

上杉雅央

飯塚孝徳

中原健夫

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対し、一四一一万二〇〇〇円及びこれに対する平成一〇年四月四日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  不当利得

(一) 被告は、自動車幌内張並びに修理等を目的とする有限会社である。

(二) 原告は、丙川二郎(以下「丙川」という。)との間で、平成一〇年二月一三日、パナソニックカーナビゲイションシステム(パナソニックカーナビゲイションシステム、CN―DV007D、TR―7LW1、CY―TFB200D、TY―CA39DA)三〇台を代金総額一四一一万二〇〇〇円で購入する契約(以下「本件売買契約」という。)を締結した。

(三) 原告は、丙川に対し、右同日、本件売買契約代金一四一一万二〇〇〇円を支払った。

(四) 被告は、丙川に対し右1(二)及び(三)の当時、カーナビゲイションシステム(以下「カーナビ」という。)の売買及び売買代金受領に関し、代理権を授与していた。

(五) 丙川は、本件売買契約の締結及びその代金受領の際、被告のためにすることを示した。

(六) 原告は、被告に対し、平成一〇年三月二七日、右カーナビゲイションシステム三〇台のうち、既に被告が納入したテレビ二台を除く残りの商品の引渡しを催告した。

(七) 原告は、被告に対し、右催告の際、一週間以内に右の残りの商品を引渡さない場合には、改めて通知、催告することなく本件売買契約を解除する旨の意思表示をした。

(八) 被告から原告に対して右の残りの商品が引き渡されないまま、平成一〇年四月三日が経過した。

2  使用者責任

(一) 丙川は、原告に対して、平成一〇年二月一三日、真実はその意思がないのに請求原告1(二)記載のカーナビゲイションシステム三〇台を納入すると偽り、その旨原告を誤信させて、原告から売買代金名下に一四一一万二〇〇〇円の交付を受けた。

(二) 右2(一)の当時、丙川は被告の被用者であった。

(三) 右2(一)の丙川の行為は、被告の事業の執行につきなされたものである。

3  原告と丙川が本件売買契約を締結するに至る経緯

原告が丙川と知り合い、本件売買契約を締結するに至る経緯は、左のとおりである。

(一) 原告は訴外丁山三郎(以下「丁山」という。)から、平成九年八月ころ、丁山と丙川との間のカーナビの売買に関して、丙川が丁山から預託された売買代金一〇〇万円を使い込んだことについて相談を受けた。そして、原告は丁山から、丁山の代理人として丙川の話を聞くことを依頼され、丙川と会うこととなった。

(二) 平成九年八月ころ、原告は丙川と阿佐谷のデニーズで会った。その際、丙川は、一〇〇万円の使い込みを認めた。そして丙川は、一〇〇万円の他に迷惑料として五〇万円を支払うのでこれで勘弁してほしいと言って、自ら進んで一五〇万円の借用書を作成し、原告に渡した。その際、原告はなんら脅迫をしていない。この話合いの際、原告の友人である訴外船越宏光(以下「船越」という。)も同席したが、他には同席した者はいない。

(三) 原告は、右一五〇万円の借用書を、丙川から受け取ってから数日後に丁山に渡した。その際、原告は丁山から、右一五〇万円についての取立ても依頼され、原告は、後日、原告の銀行口座を丙川に教えた。

(四) 丙川は、原告に対して、右一五〇万円の債務の支払として、平成九年九月三日、三万円を原告の口座に振り込んで支払い、さらに、同年一〇月八日、一〇万円を同じく振り込んで支払ったが、他には丙川から原告への支払はなかった。

(五) 原告は、丙川に対して、平成九年一二月、残金の支払に代え、カーナビを納入するよう求めた。そこで、丙川は原告に対して、平成九年一二月二六日、カーナビを納入した。原告は、右カーナビを、その中身を確認しないまま丁山に渡した。なお、原告は、このカーナビの納入によって、丙川の丁山への右一五〇万円の債務は完済されたものと考えていたので、その後丙川に対して、丁山から依頼された右一五〇万円の取立てに関して、残金の支払を請求したことはない。

(六) 原告は、丙川の言動から、丙川がカーナビの入手について相当自信を持っていることが感じられ、丙川が、当時品薄であったパナソニックの新製品のカーナビについてもすぐに入手できるというので、原告は丙川を通じてカーナビゲイションシステム三〇セットを購入することにした。

(七) 丙川の説明によれば、原告はこれまで被告と取引がないので、定価でかつ現金で取引をする必要があるとのことであった。そして、取引をする場合には、原告が定価で支払をした後に被告が代金の二〇パーセントをキャッシュバックすること、DVD一個につきクオカード一枚を付けること、原告が探してきた顧客に対して丙川が取付工事をし、取付工事代金については丙川と原告で分けることを丙川が説明した。なお、丙川が原告に対して、取引商品の明細及びキャッシュバックにつき説明した際に、カーナビ代金及び取付代金の明細を記載したメモを交付した。

(八) そこで、原告は、本件売買契約の代金に充てるために、平成一〇年一月一〇日過ぎころ、訴外星野忠則(以下「星野」という。)から五三〇万円を借り受け、他にも、船越から四七〇万円を、訴外鈴木俊尚(以下「鈴木」という。)から約四八〇万円を借り受けた。船越は、右四七〇万円のうち二七〇万円を船越自身の所持金から、残りの二〇〇万円を船越の知人である訴外木下(以下「木下」という。)から借り入れて調達しており、木下は右二〇〇万円を自分の銀行口座から下ろしている。鈴木は、四八〇万円を、原告と鈴木の共通の知人である訴外大山武から借り入れて、原告に右の約四八〇万円を貸し付けている。なお、船越は、自身が所有する外国製高級腕時計を質に入れて換金し、木下からの借入金の返済の一部に充てている。

(九) 原告は、平成一〇年二月一三日、用意した現金を持参して被告会社へ行き、被告会社の近くの路地に駐車して、車の中で、丙川に代金一四一一万二〇〇〇円を支払った。丙川は車内で一四一一万二〇〇〇円あることを確かめた後、車の助手席で領収証を作成し、原告に交付した。領収書の名宛人が、原告のほか、船越、鈴木となっているのは、原告が船越及び鈴木から売買代金に充てる資金を調達したからである。

4  よって、原告は、被告に対し、主位的に、本件売買契約の解除による不当利得返還請求権に基づき、一四一一万二〇〇〇円及びこれに対する平成一〇年四月四日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による利息の支払を、予備的に使用者責任に基づき、一四一一万二〇〇〇円及びこれに対する平成一〇年四月四日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1(一)  請求原因1(一)は認める。

(二)  請求原因1(二)ないし(五)は否認する。

(三)  請求原因1(六)ないし(八)は認める。

2(一)  請求原因2(一)は否認する。

(二)  請求原因2(二)は認める。

(三)  請求原因2(三)は否認する。仮に、原告が丙川に、原告が主張するように本件売買契約の代金一四一一万二〇〇〇円を丙川に払っていたとしても、この丙川の行為は、被告会社のそばに駐車した原告の自動車内でなされたものであり、商品の横流し行為であることが明らかであって、行為の外形上被告の業務の執行につきなされたとはいえない。

3(一)  請求原因3(一)のうち、丙川と丁山との間でカーナビの取引があったこと、丙川が丁山の支払ったカーナビ代金を使い込んだこと、及び、原告と丙川が平成九年八月に会うこととなったことは認める。原告が丁山から丙山に使い込みについて相談を受けたことは不知。原告が代理人として丙川の話を聞くことを目的としたことは否認する。

(二)(1)  請求原因3(二)のうち、平成九年八月ころに原告が丙川と阿佐谷のデニーズで会ったことは認め、その余は否認する。

(2) 原告と丙川が阿佐谷で会うに至る経緯と話合いの内容は左のとおりである。

丙川は、平成九年二月ころ、丁山からアルパインのカーナビ一セットの販売依頼を受け、代金二〇万円を預かったが、被告会社へ入金せず、個人的な飲食代として費消した。丙川は、アルパインのカーナビをなかなか調達することができず、丁山が早急に納品を希望したこともあって、平成九年三月下旬に、パナソニックのカーナビであればすぐに納品できる旨伝え、丁山からパナソニックのカーナビに変更することの了承を得て、平成九年四月ころ、ラッキーモータースを通じて、丁山にパナソニックのカーナビを納品した。当時丁山は頻繁にラッキーモータースに出入りしていたので、丙川はラッキーモータースに右パナソニックのカーナビを渡し、丁山へ右パナソニックのカーナビを渡すように頼んだ。

平成九年八月ころ、丙川は原告から、丙川が丁山に売ったカーナビのことで話がしたいと言われ、阿佐谷のデニーズで会った。

デニーズでは、原告と原告より若い二〇代の男性が待っていた。そして、原告は丙川に対し、原告が中古車販売の仕事をしていること、丙川が丁山に納入したカーナビがアルパインのカーナビではなく、パナソニックのカーナビであったこと、そのため、原告はアルパインのカーナビをつけて販売する予定だったのにパナソニックのカーナビをつけて納車せざるを得なくなり、顧客から中古車の販売価格を六〇万円値切られたこと、原告の会社では金融の仕事もしているところ、丙川のせいで六〇万円を四ケ月間寝かせることになり、六〇万円の四ケ月間の運用益である九〇万円の損害を受けたこと、右の合計額一五〇万円は、丙川が負担するべきであること、丙川が払わないなら丙川が被告会社の金を横領したことを会社の人間に告げる旨丙川に言った。

丙川は原告が怖かったことと、会社の従業員に丙川が会社の金を横領したことを知られたくなかったことから、原告に対し、一五〇万円の支払の要求に応じる旨答えると、原告は電話でやくざ風の人物を呼び、その人物が借用書を取り出した。そして丙川はその人物の指示どおり、平成九年一〇月から一二月の各末日に五〇万円ずつ原告に支払う旨の借用書を作成し、さらに、原告に言われるままに金額欄が白紙の借用書を作成した。

(三)  請求原因3(三)のうち、原告から原告の銀行口座を教えられたことは認め、その余は否認。

(四)  請求原因3(四)のうち、丙川が平成九年九月三日に、原告口座に三万円を振り込み支払ったこと及び平成九年一〇月八日に一〇万円を原告口座に振り込み支払ったことは認め、その余は否認する。丙川は平成九年九月八日に、三七万円を原告の指定する人物に直接現金で支払っている。

(五)  請求原因3(五)のうち、原告が丙川にカーナビの納入を要求したこと、丙川が原告に対して、平成九年一二月二六日にカーナビを納入したことは認め、その余は否認する。なお、正確には、右カーナビの納入は、平成九年一二月二五日に丙川が原告宛にカーナビを送付することにより納入したものである。原告は、丙川に対して、執拗に残金一〇〇万円を支払うように要求していたが、丙川が一〇〇万円を調達することができなかったため、残金一〇〇万円の支払を猶予する対価としてカーナビを二セット納入するように脅迫したのであって、残金の弁済に代えてカーナビを納入するよう要求したのではない。カーナビ納入以後、平成一〇年一月になってからも、原告は丙川に対し、電話で何度も、残金一〇〇万円の支払を要求した。

(六)  請求原因3(六)は否認する。原告が丙川にカーナビの取引を求めたのは、原告が丙川に対して執拗に残金一〇〇万円支払うように要求したが丙川が一〇〇万円を調達できないことがわかったため、一〇〇万円分をカーナビの売却による利益で埋めようとしてのことである。すなわち、原告は丙川の売却による利益で埋めようとしてのことである。すなわち、原告は丙川に対し、平成一〇年一月中旬ころ、カーナビを自分宛てに卸すよう要求するとともに、カーナビ代金の見積もりを出すよう指示した。そこで、丙川は原告に対し、二種類のカーナビ代金に関する見積もりメモを作成、交付した。そして、一月下旬ころ、原告は丙川に対し、「定価の一〇パーセントも引けば捌けるだろうから、一〇〇万円を穴埋めするために合計二〇セットのカーナビを定価の二〇パーセント引きで卸してもらおう。」と言ってきた。

(七)  請求原因3(七)のうち、丙川が原告に対して、新規の売り先には現金販売でないと受け付けられない決まりである旨の説明をした点は認め、その余は否認する。なお、右丙川の説明は、平成一〇年の一月終わりか二月初めころ、現金で後払いするから定価の二〇パーセント引きでカーナビを卸すよう原告が丙川に対して要求してきた時に、それを丙川が断った際にした説明である。これに対し、原告は丙川に対し、「代金は後で必ず現金で支払うから先にカーナビを卸せ。」などと言ってきたので、丙川は、「納品時に現金一括払いでないとカーナビは卸せません」などと答えた。すると、原告は「既に客を付けているのだから早くカーナビを卸せ。金は必ず後で払ってやる。金を払わないとは言ってないだろう。カーナビを卸せないなら直ちに残金一〇〇万円を支払え。」などと丙川に強く要求してきた。そのため、丙川は、自分の残金一〇〇万円の支払能力はないため何とか残金一〇〇万円の支払を免れたいし、原告の要求に逆らえば何をされるか分からないという恐怖感もあり、また、原告もカーナビ代金を現金で後払いすると言明しており、被告の規則には反するものの、後に現金が入ってくればカーナビを横流ししても何とかなるのではないかと考え、原告に対し「自分が残金一〇〇万円を支払わずに済むのであればカーナビを出します。」と答えた。

(八)  請求原因3(八)は否認する。原告は丙川に本件売買契約の売買代金を支払っておらず、その資金調達もなされていない。

(九)  請求原因3(九)のうち、丙川が領収証を作成したことは認め、その余は否認する。

原告は、丙川が、「残金一〇〇万円を支払わずに済むのであればカーナビを出します。」と言ったことを撤回できないようにしようと考え、丙川に対し、平成一〇年二月一二日、被告の社印を押した白紙の領収証三枚を用意して、翌日の午前中に原告の勤務する会社に持参するよう要求してきた。これに対し、丙川が原告に対し、「なぜ、被告名義の領収証を用意しなければならないのですか」と尋ねたところ、原告は丙川に対し、「お前がカーナビを全部渡すまでの保険として必要だ。領収証を用意できなければ、この話はなかったことにする。領収証が用意できないならば直ちに一〇〇万円を支払ってもらう。」などと強く要求してきた。そのため、丙川は、自分に残金一〇〇万円の支払能力はないため何とか残金一〇〇万円の支払を免れたいし、原告の要求に逆らえば何をされるか分からないという恐怖感もあり、また、原告もカーナビ代金を現金で後払いすると言明しており、被告の規則には反するものの、後に現金が入ってくればカーナビを横流ししても何とかなるのではないかと考え、原告の要求に応じてしまうこととなり、同年二月一三日、原告の勤務する有限会社ズームプロジェクトの会社事務所において、原告の要求どおり被告の社印を押した白紙の領収証三枚を持参した上、原告から具体的な金額、宛先等を指示されて、そのとおり記載した。原告が丙川に一四一一万二〇〇〇円を支払った事実はない。

三  抗弁(請求原因2に対して)

原告が丙川と知り合った経緯からすると、原告は丙川の行為が、被告に無断でなされた商品横流し行為であることを知っていたか、容易に知り得たのに重大な過失により知らなかったものである。

すなわち、丙川は、平成九年初ころまで、被告の取引先であるラッキーモータースに対して、自己の利益を図る目的から被告において仕入れるカーナビを安価で横流しをして売却代金を複数回着服しており、ラッキーモータースでは、丙川の横流し行為を知りながら安価にカーナビを入手できるという理由から丙川の行動を黙認していた。そして丁山は、ラッキーモータースで働いていた斉藤(ラッキーモータースの社長の孫)の友人であったため丙川を知るようになり、丙川からカーナビ一セットを代金二〇万円で購入することになったが、丁山は、丙川がその売買代金を被告に入金する意思がないことを知っていながら、代金を支払ったのである。そして、丁山は丙川からカーナビが納入されないことにしびれを切らして、丙川との間の経緯を原告に話した上で丙川との交渉を原告に依頼したのであり、原告は、丙川と会う前から、丙川が自己の利益を図るために被告の仕入れるカーナビを横流しして売却代金を着服していた事実を知っていたのである。また、原告は丙川から一五〇万円を取り立てるに際し、丙川に支払能力がないと判断するや、丙川に対し、被告の仕入れるカーナビ二セットを横流しするよう要求し、平成九年一二月二五日、丙川をして原告宛にカーナビ二セットを送付させている。さらに、仮に、請求原因3(七)記載の丙川が原告にした説明に関する原告の主張が真実とすれば、丙川は原告に対し、カーナビ取付工事代金を原告と丙川で山分けするという説明をしたことになるが、カーナビ取付工事代金を原告と丙川が山分けすることなど到底被告が認めているはずがなく、丙川の説明内容からしても原告は丙川が被告に無断で行動していたことを十分認識していた。かかる経緯からすると、原告は、本件売買契約及びその代金の授受が、丙川が被告に無断でした商品横流し行為であることを知っていたか、容易に知り得たのに重大な過失により知らなかったのである。

よって、丙川の行為によって原告に損害が生じたとしても、その損害は民法七一五条にいわゆる「被用者カ其事業ノ執行ニ付キ第三者ニ加ヘタル損害」とはいえない。

四  抗弁に対する認否

否認する。

原告は、丙川に対して、一四一一万二〇〇〇円もの大金を支払っているが、仮に原告が丙川の商品横流しを知った上で加担したのであれば、このような大金を丙川に支払うことはあり得ないのであって、原告は悪意ではない。

原告は、被告の従業員である丙川に代金を交付し、被告の会社のゴム印及び社印が押された領収証を交付されたのであるから、丙川が被告の事業の執行としてカーナビを原告に販売したと考えたことは極自然であり、原告に重過失はない。

理由

一  主位的請求について

1  本件の中心的争点とその判断の順序

主位的請求は、原告が本件売買契約を解除したことにより、原状回復として売買代金として支払ったとする一四一一万二〇〇〇円の返還を請求するものである。

右請求における中心的争点は、原告が丙川に対し平成一〇年二月一三日、右代金を支払ったか否かである。

この点について、積極認定に供することのできる証拠として、甲一ないし三(丙川作成の被告名義の領収書)及び甲一〇(陳述書)、原告本人尋問の結果がある。とりわけ、甲一ないし三は、処分証書ではないが、金銭授受の証拠としては極めて重要なものであり、これが採用できるとすれば、右争点については決着がつくものである。しかし、被告はその証拠価値を争い、その主張は真向から対立している。

本件の右のような争いの性質にかんがみ、以下では、本件売買契約締結に至る経緯を含む中心的争点を判断するために有用な間接事実を含めて事実認定し(2)、そのような認定をしたことについての補足説明を施し(3)、その上で、争点についての判断を示す(4、5)ことにする。

2  認定事実

証拠(甲七、一〇、乙三、七、八、一八、二一、二二、証人丁山三郎(以下「丁山証言」という。)、原告本人、取下げ前の平成一〇年(ワ)第二二九六七号事件原告本人丙川二郎(以下「丙川供述」という。))及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

(一)  丙川は、昭和六一年ころから被告(自動車幌内張・修理等を目的とする有限会社、当事者間に争いなし)に勤務し、自動車の内装設備の販売及び取付工事等の業務に従事していた。被告の代表取締役である乙田太郎及び専務取締役である乙田次郎は、いずれも丙川の叔父であり、丙川の母も被告に勤務している。(乙七)

(二)  丙川は、平成八年夏ころから、被告の取引先であった自動車販売会社である株式会社ラッキーモータース(以下「ラッキーモータース」という。)の営業を担当することとなったが、同社の社長の孫である斉藤兄弟(以下「斉藤兄弟」という。)と親しくなり、斉藤兄弟の友人で、当時同社に出入りしていた丁山とも知り合った。(乙七、二一、丁山証言)

(三)  丙川は、その当時、競馬や飲食等の遊興に金を使い借金をしたことがきっかけとなって、いわゆるサラ金から合計四〇〇万円以上の負債を有していた。丙川は、当時、被告から月額約二八万円の給料を得ていたが、右借財の返済が月額一〇万円以上あった上、家賃の支払が月額八万五〇〇〇円であり、給料だけで生活をすることが経済的に苦しい状態であった。(乙二一、丙川供述)

(四)  そこで、丙川は、当面の借金の返済や家賃の支払に充てるため、カーナビを代金前払で販売すると称してその代金を着服し、カーナビは後日被告の商品を横流しして納入することを考え、ラッキーモータースの社長、専務、斉藤兄弟らに対して、「安いルートで手に入るカーナビがあります。ただ、現金で先払いしてもらう必要はあります。」とカーナビの販売を持ちかけた。ラッキーモータースの社長らが丙川の右勧誘に応じたため、丙川は、合計五台ほど、代金の前払を受けた後、被告のカーナビを横流しして納入し、前払代金を着服した。(乙二一、丁山証言、丙川供述)

(五)  丙川は、丁山に対しても、右と同様、安くカーナビを販売することを持ちかけた。丁山は、丙川からカーナビを購入しようと考え、その代金を丙川に支払った。丙川は丁山から支払を受けた金員を着服したが、カーナビの納入を長期間行わなかったので、丁山は、斉藤兄弟を通じて、丙川に対し、カーナビ納入の催促をした。(乙七、二二、丁山証言、丙川供述)

(六)  丙川は、右のカーナビの横流しに関して、前払を受けた代金額とカーナビの正規の代金額との差額を自ら補填して、カーナビの正規の代金額を被告に入金することができなかったため、平成九年春ころ、ラッキーモータースの関係者らへの横流しが被告に発覚した。丙川は、被告の代表取締役から厳しく叱責を受け、給料から会社が受けた損害を賠償していくこととなった。(乙二一)

(七)  丁山は、原告に対し、平成九年八月ころ、丁山が丙川からカーナビを購入するため代金を前払したのにカーナビが納入されず困っていると相談した。(甲一〇、乙一八、原告本人、丁山証言)

(八)  原告は、丙川に電話をかけ、平成九年八月ころ、阿佐ケ谷のデニーズに呼び出し、丁山と丙川の間のカーナビの売買に関する話をする機会をもった。そして、その結果、丙川が、原告に対し、同年一〇月ないし一二月に各五〇万円ずつ、合計一五〇万円を支払うことが約され、丙川は一五〇万円の借用書を作成し、原告に交付した。(甲一〇、乙七、原告本人、丙川供述)

(九)  原告は、丙川が、阿佐ケ谷のデニーズにおいて、一五〇万円の支払を約して借用書を作成したとき、丙川がかなり金に困っている人間であると感じていた。そして、原告は、丙川が、丁山の他にも複数の人に対して、カーナビを納入すると言って代金の前払を受けて代金を着服したことを丁山や斉藤兄弟から聞いていたので、丙川が支払を約した右一五〇万円も、他人から金員をだまし取り、その支払資金を調達するにちがいないと考えていた。(原告本人)

その後、原告は、被告丙川について、会社の商品代金を使い込むような信用のおけない人間であると考えていたので、丙川が原告から逃げるかもしれないと考え、阿佐ケ谷のデニーズでの面会以後、時々丙川に電話をしていた。(甲一〇)

(一〇)  丙川は原告に対し、阿佐ケ谷のデニーズで約した一五〇万円の支払の一部として、平成九年九月三日、三万円を、同年一〇月八日、一〇万円をいずれも振り込みにより支払った。(甲七、一〇、原告本人)

(一一)  原告は、平成九年一〇月八日以降、丙川から金員が支払われなくなったことから、丙川に対して、同年一一月、金が用意できないなら代りにカーナビを渡すように求めた。これに対し、丙川は、原告に対し、「赤伝票」という言葉を交えて、被告が顧客に納入したカーナビが壊れたことにして新しいカーナビを調達し、それを原告に回すことにより、被告の商品を横流しする方法がある旨を説明した。(原告本人)

(一二)  なお、右「赤伝票」とは、被告が顧客に納入及び取付をしたカーナビに欠陥がある場合に、被告が仕入先の業者から交換用のカーナビをいったん仕入れ、仕入先の業者は、右カーナビについて「黒伝票」と称される請求書を発行し、被告が交換用のカーナビを顧客に納入及び取付をした上欠陥カーナビを仕入業者に引き渡した際、仕入業者が被告に対して発行するものである。右赤伝票は、カーナビに欠陥があったことを仕入れ業者が確認し、黒伝票に記載された交換用のカーナビ代金を請求しないことにするという趣旨で発行されるものである。もっとも、被告の従業員が欠陥カーナビがあると偽って交換用のカーナビを仕入れてそれを横流しすれば、仕入れ業者に欠陥カーナビを引き渡すことがなく赤伝票が発行されることがないため、いずれは横流しが被告に発覚する。(乙七、八)

(一三)  丙川は、原告に宛て、平成九年一二月二五日、西武運輸の宅配便で、カーナビ二セットを送付し、同月二六日、原告は右カーナビ二セットを受け取った。(甲一〇、乙三、乙七、原告本人、丙川供述)

(一四)  原告は、平成一〇年一月ころ、丙川からカーナビを入手しようと考え、丙川に対し、カーナビを原告に販売するように求めた。(乙七、原告本人)

なお、丙川がカーナビを入手する方法についての原告の認識は、中心的争点を判断するに当たり重要な点であるので、後に詳細に述べる(一4(三)参照)。

(一五)  平成一〇年二月一三日、丙川は、三通の領収書を作成し、原告に渡した。右三通の領収書は、いずれも、一〇年二月一三日付けで、金額は四七〇万四〇〇〇円、カーナビ一〇セット分の代金である旨の記載があり、一〇〇〇円の収入印紙が貼付してあり、被告の社印が押され、「丙川二郎」と手書きで書かれ、丙川の印が押されたものであった。右三通の領収書うち、一通が原告宛、一通が船越宛、一通が鈴木宛であった。(甲一ないし三)

(一六)  丙川は、被告において経理を担当したことはなく、被告名義の領収書を作成し、あるいはこれを発行する権限を有していなかった。三通の領収書は市販の領収書であって、被告の正規のものとは外形上、形式上も異なるものであった。(甲一ないし三、乙一、乙七、坂本供述、弁論の全趣旨)

以上の事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

3  認定事実についての補足説明

(一)  原告は、丙川が阿佐ケ谷のデニーズにおいて前記一五〇万円の借用書を作成するに至る経緯(2・(八))に関し、請求原因3(二)のとおり主張し、右主張に沿う証拠(甲一〇、一二、原告本人)もあるが、被告は右の点に関し、請求原因に対する認否3(二)のとおり主張し、右主張に沿う証拠(乙七、丙川供述)もあり、いずれの証拠にも、右各主張に関する部分について、その内容自体に不自然な点があり、にわかに信用できず、結局、本件全証拠をもっても、真偽いずれかを決することができない。ただ、丙川が、履行の見通しもなく、その場の状況によって、人から言われるままに法的に意味のある書面を作成することがあるという事実は、見逃すべきではないであろう。

(二)  原告は、平成一〇年一月ころに原告が丙川にカーナビを販売するよう求めるに至る経緯や原告が売却を求めたカーナビの個数、値引きの有無等について、請求原因3(六)及び(七)のとおり、右申入れは従前の一五〇万円の借用書についての支払とは関係なく別の取引を求めたものであり、原告が丙川に売却を求めたカーナビの個数は三〇セットであり、定価かつ現金で取引する必然性ないし合理性があった等と主張し、右主張に沿う証拠(甲一〇、原告本人)もある。これに対し、被告は、請求原因に対する認否3(六)及び(七)のとおり、右申入れは、原告は従前の一五〇万円の借用書に関する支払が一〇〇万円残っていることを前提に、その一〇〇万円の支払に代わるものとして原告が転売利益を得るため原告が丙川に対し定価を割引した上、カーナビを売却することを求めたもので、原告が丙川に売却を求めたカーナビの個数は二〇セットである等と主張し、右主張に沿う証拠(乙七、二一、丙川供述)もある。しかし、いずれの証拠にも、右各主張に関する部分についてその内容自体に不自然な点があり、にわかに信用できず、結局、本件全証拠をもってしても、真偽いずれかを決することができない。

(三)  原告本人の供述中には、「丙川は、丁山が丙川に渡した一〇〇万円を使い込んではいるが、丙川はその使い込みを正直に認め、その一〇〇万円に五〇万円を上乗せした一五〇万円を支払う旨を約束するような人物であるから丙川を信用していた。」旨の供述部分がある。しかし、右供述部分は、その内容自体が不合理であるのみならず、「丙川という人間は商品代金を使い込むような信用のおけない人間でしたので、逃げられたら困るので時々電話をしていた。」との原告の陳述書(甲一〇)の記載部分とも矛盾しており、到底信用することができない。

4  判断

2の認定事実に基づき、本件中心的争点について検討する。

(一) 認定事実によれば、原告と丙川とが知り合う経緯が、丙川の被告に対する不正行為に関して丁山との間で発生したトラブル解決のためであったこと、その解決策なるものとして丙川が一定の金員を支払う合意したこと、そうした関係の下に、本件売買に関する話が出てきたこと等が認められる。そのため、丙川は原告に対しては弱みがあって対等ではなく、原告の要求を容れる方向で対応しがちであったことが推測される。さらに、本件売買の話は、通常の売買契約とは相当異なる状況で出てきたものと評価すべきである。

(二) ところで、原告は、被告の代理人である丙川との間で、平成一〇年二月一三日、本件売買契約を締結し、右同日、代金一四一一万二〇〇〇円を現金で丙川に支払ったと主張し、これに沿う証拠として、甲一〇の記載部分及び原告本人の供述部分がある。甲一ないし三によれば、丙川が三通の領収書を作成したこと、右領収書には、それぞれ、名宛人を磯田、船越及び鈴木として、カーナビ一〇セットの代金四七〇万四〇〇〇円を受領した旨、担当者として丙川の氏名の各記載があること、領収書の発行者として被告の社名と社印が押捺されていることが明らかである。また、乙七の記載部分及び丙川の供述部分によれば、丙川が被告の社印を押捺した上、右領収書に、宛名、金額、商品明細、日付等を記載して、原告に交付したことが認められる。

通常の社会人が、甲一ないし三を作成した場合には、特段の事情のない限り、その記載どおりの現金が授受されたものと認めることが相当である。

(三) しかしながら、本件においては、原告が本件売買契約締結に当たり代金を前払することは著しく合理性を欠いていると評価せざるを得ず、右に述べた特段の事情が存する場合に該当するものというべきである。

すなわち、商品の買主が一四〇〇万円を超えるような多額の売買代金を支払う際に、商品と引換ではなく、前払によりこれをする場合には、売主との間で継続的に取引を行っている等、当該商品の引渡しを信ずるに足りる関係の存することが経験則上通常であると考えられる。しかしながら、本件においては、認定事実によれば、原告は、丙川が、金銭に窮しているばかりでなく、前払を受けたカーナビ代金を使い込んだことを熟知しており、丙川を信用できないと考えていたのであるから、原告が丙川に対し、一四一一万二〇〇〇円もの大金をカーナビ代金として前払することは、この意味で著しく合理性が欠如したものということができる。なお、一般論としては、原告が被告の信用をあてにして代金を前払した可能性もないとはいえないが、いかに信用のある会社と取引をする場合であっても、その取引を直接担当する従業員が過去に商品代金を着服したことを知っていたとすれば、一四一一万二〇〇〇円もの大金をその担当者に現金で前払することは通常考えられないというべきであろう。

加えて、認定事実によれば、(1)原告が丙川に対し、平成九年一一月以降、金が用意できないのであれば代りにカーナビを渡すよう求めた(一2(二)参照)のであるが、金銭に窮して金を用意できない丙川がカーナビを入手するには実際問題として被告の商品から横流しする以外にその方法が考えにくいから、右(1)の事実のみでも、原告は、当時、丙川が被告の商品からカーナビを横流ししてくることを前提に丙川にカーナビを納入するように求めたものとみられるところ、(2)丙川は、原告の右(1)の求めに対し、被告の商品の中に欠陥カーナビがあったことにして、カーナビを被告の商品から横流しする方法があるとまで説明した(一2(二)及び(一二)参照)のであるから、丙川が平成九年一二月末に原告に送付したカーナビ二セット(一2(一三)参照)については、丙川が被告の商品から横流しした物であることを認識していたと推認することができる。そうすると、原告が、丙川に対し、平成一〇年一月にカーナビを販売するよう求めた際(一2(一四)参照)にも、原告は丙川がカーナビを横流ししてくることを当然のこととして予想していたものと推認するのが相当であるところ、原告自身も、本人尋問において、「今までの話からすると、三〇セットというのは、丙川が札付きの人物だから、正当な手段でなく入手できるという理解でいいわけですか。」との問いに対して、「そう取られるならそれでも構わないですよ。」と答え、丙川がカーナビを横流ししてくることを前提としていた旨を認めた答えをしており、原告が丙川に平成一〇年一月にカーナビの販売を求めた際には、原告は丙川がカーナビを横流ししてくることを前提にしていたと優に認定できる。

なお、原告本人尋問中には、「丙川がカーナビ三〇セットを被告の商品から横流ししてくるとは思っていなかった」旨の供述部分があるが、右供述部分は、原告が右のとおりの問答の後に、原告代理人の質問を受けて供述を変遷させたものであって、到底信用することができない。

そうすると、原告は、丙川が被告の商品から横流ししてくるカーナビを取得しようとしていたこととなるが、そのような経路で入手しようとする商品に対して一四一一万二〇〇〇円もの大金を前払することは到底考えられない。また、原告の丙川がカーナビを入手する方法についての右のような認識は、原告が被告との間で真に本件売買契約を締結しようと考えていたのかについて、強く疑義を生じさせる点でもあるが、それは措くとしても、原告の右認識からは、被告の信用をあてにして代金を前払したということも到底いえないのである。

以上によれば、原告が丙川に対して何の保証もないのに一四一一万二〇〇〇円もの大金をカーナビ代金として前払することはおよそ合理性が欠如したものというほかなく、他に、現金で取引する必然性ないし合理性を認めることはできない(一3(二)参照)から、結局、甲一ないし三をもってしても、その記載どおりの代金授受があったことを認めることはできないというほかない。

(四)  もっとも、原告は、星野、船越及び鈴木から金員を借り受けて、右一四〇〇万円余りを調達した旨を主張し、右主張に沿う証拠(甲一一の一ないし三、甲一二ないし甲一九、原告本人)もある。

しかしながら、右各証拠によっても、星野、船越及び鈴木が、原告に貸し付けた五〇〇万円前後の金員の調達経路は不明であり、貸し付けた状況もあいまいであって、船越及び鈴木については受領に関する領収書等の書面も存しないなど、右のような多額の金員の貸借としては不自然な点があり、右各証拠は、金員調達の事実を証明するものとして、必ずしも十分なものとはいえない。この点を措くとしても、右各証拠は、原告が丙川に一四〇〇万円余りを交付したという事実を証明するものではないから、結局、甲一ないし三を補強するものとしては不十分であるといわざるを得ない。

(五)  それでは、丙川は、現金の交付を受けないにもかかわらず、何故甲一ないし三を作成したのかという疑問が残るので付言する。

この点については、丙川は、原告と知り合う経験からして、対等ではなく原告の要求を容れる方向で対応しがちな関係にあったものであり、丁山とのトラブルの件について、原告に対し一五〇万円の借用書を作成している事実が重要である。これは、丙川が、履行の見通しもなく、その場の状況によって、人から言われるままに法的に意味のある書面を作成することがあるという例証としても捉えるべきである。これらから考えると、丙川は、本件における原告と丙川との特異な関係のほか、困った状況に置かれた場合、およそ思慮を欠いた無責任なその場しのぎの対応をするという特有のパーソナリティにより、原告に言われるままに、後先のことを考えることなく甲一ないし三を作成したものとみるのが相当というべきである。

5  まとめ

以上の次第であるから、原告が平成一〇年二月二三日、丙川に一四一一万二〇〇〇円を支払ったとの事実は認められず、他に原告の右主張を認めるに足りる証拠はない。

よって、原告の主位的請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がない。

二  予備的請求について

1  原告は、「丙川は、原告に対して、平成一〇年二月一三日、真実はその意思がないのに請求原因1(二)記載のカーナビゲイションシステム三〇台を納入すると偽り、その旨原告を誤信させて、原告から売買代金名下に一四一一万二〇〇〇円の交付を受けた。」と主張するが、原告が丙川に一四一一万二〇〇〇円を交付した事実を認めるに足りる証拠がないことは、すでに説示したとおりであり、原告の右主張を認めるに足りる証拠はない。

したがって、原告の予備的請求も理由がない。

2  なお、前記認定の事実によれば、原告は丙川が被告の商品を横流しする等正当な手段でなく入手したカーナビを譲り受けようとしたものであって、丙川の右行為は、その外形から見ても、被告の事業の執行に関するものとは到底いえないことは明らかであるから、この点においても、原告の予備的請求は理由がないというほかない。

三  結論

以上によれば、原告の請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官加藤新太郎 裁判官足立謙三 裁判官中野琢郎)

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